セキュリティ怪談『出張の夜』|セキュリティごった煮ブログ

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セキュリティ怪談『出張の夜』

豊玉堂
お盆といえば"地獄の窯の蓋が開く日"なんて云われておりますが、今年(2018年)は蓋が開きっぱなしになってるんじゃないかってぐらい暑い日が続きましたね。
豊玉堂です。みなさんお変わりないですか?

そんな暑さもようやく収まり始めて、暑すぎて鳴けなかった蝉が一斉に鳴き始めたと思ったら、また暑さがぶり返したりなんかして、まだ暫く夏は続きそうですね。
今日はそんな季節に、みなさんとセキュリティにまつわる、ちょっと背中の涼しくなるようなお話を共有しようと、そんな試みになります。
短いお時間ではありますが、最後までお付き合いください。

サイバーな世界の難しさは見えないこと、といいますか、現実世界の理屈が通用しないから何が起こるか予測ができない。
なんてことがよく言われますよね。
予測ができなきゃ対処の仕方が無い。
だもんで、知らないことには何も始まらないし、そこがおっかない。
先日のネットエージェントの主催セミナーでも、そんな内容の公演がありましたが、今回はそんなお話です。
セキュリティ怪談キャッチ
先日、仕事帰りに電車に乗っていると、ばったり旧友に出くわしたんですよ。
疎遠になってたって程でもないんですが、そういやここんところ会ってなかったなってくらいの間柄。
付き合い自体は長いので、お互い気心は知れてるんで「よう、久しぶり」「一杯どう?」ってな具合ですぐに飲みに行くことになった。

この友人......仮にIさんとしておきましょう。
Iさんは、ごくごく普通の勤め人で、私の友人の中で「普通度ランキング」を付けるとしたら、まぁトップを争う有力者の一人ってところで、ちょっと気の小さい所はあるけど、その分気のいい、そんな男なんですよ。

で、そのままちょっと大きめの駅で電車を降りて、「まぁ、この辺でいいだろう」って当たりを付けた店に入った。

暫く会ってなかったといっても、特に同じ業界で働いてるというわけでもないんで、特に話題というほどのこともないんですが。
「あの人今何してる~」とか「そういえばあの時~」ってな感じに、昔話をつまみに暫く飲んだ。

ひとしきり飲んで、そろそろ話題も尽きたかなってところで
「そういや豊玉さん......こないだこんなことがあってね......」
Iさんが、話してくれたんですよ。

しばらく前、Iさんはテレビを買い替えた。
最近のテレビってやたらと高機能ですよね。
画面の綺麗さとか、画像の細かさとか、そういったテレビらしいところの競争はもう下火になって、今はテレビを見る以外の機能で競争してる、そんな時代になってるみたいです。
Iさんが買ったのも、そんな高機能なテレビで、インターネット機能を売りにした......まぁ今となっては珍しくないモノですが......そういったテレビだったそうです。

というのも、Iさんには二人のお子さんがいて、よくアニメの動画が見たいとせがまれるようなんですよ。
で、今まではDVDのレンタルショップを使ってたんですが、まぁ、借りたり返したりが面倒くさい。
「一度返し忘れて、延滞料金が大変なことになって、奥さんにこっぴどく怒られた」なんて話もしてましたねぇ。
そんな事もあったもんで、「じゃぁ、ネット動画も見られる奴にしようか」なんて、新しいテレビを決めたそうです。

テレビが家に届いて、さてセットアップ。
高機能なテレビはパソコンみたいなもんですからね。
テレビ番組を見るだけなら、線を繋いではい終わり、みたいな簡単なもんですが......ネットワーク機能を使うとなると、色々面倒な設定が必要になる。
馴れない人だと、説明書につきっきりでかなり手間取る、そんな感じみたいです。
でも、そこはIさんも普段からスマートフォンを使ってるぐらいですから手慣れたもんで......サービスアカウントも既に持ってますからね、ささっと終わりにできた。

子供たちも「お父さんすごいね」って喜んでくれて、Iさんも上機嫌でWebブラウザを追加でインストールして見せたりして......
その日は子供たちと楽しい時間を過ごしたそうです。

その次の週、Iさんは関西の方の地方都市に出張になった。
上手い事スケジュールの調整が付いたお陰で、その地方のお客様の何か所かにアポイントが取れて、一泊二日の日程がほどよく埋まる形にできたそうなんです。

で、出張一日目、予定通りにお客様を回っていたIさんでしたが、丁度昼を回ったあたりで携帯に電話がかかってきた。
1日目の最後に予定を入れていたお客さんからの電話で、「担当者の都合が悪くなったので、訪問をキャンセルして欲しい」って内容だった。
仕事をしていれば、そういったことはまぁ、たまにはあるし、今回はそのお客さんの為だけの出張でもないので、「穴空いちゃったなぁ」なんて思いながらもIさん、「分かりました、ではまたよろしくお願いします」って電話を切った。

さて、思いもかけず予定が空いちゃったIさん。
15時過ぎにはこの日の日程は終わってしまった。
出張先のこの町も、初めてって程ではないけれども、土地勘はあまりない。
「さて、どうしたもんかなぁ......」
ホテルに入るのは早すぎるし、こんな時間から飲みに入るのも気が引ける。
気の知れたお客さんを誘うにも、さすがにまだ日が高すぎる。
仕方がないので、「その辺をぶらついてみるか」って具合に当てもなく歩き始めた。

そんな風に30分ほど歩いていると、どうやらこの町の繁華街っぽい所にでた。
まだ時間が早いこともあってか、あまり人通りが無い通りに、年季の入ったビルが肩を寄せ合っているような、そんな一角。
営業時間が始まってないことも相まって、まだシャッターが下りたままの店が多い。
そんな中に一軒の映画館があった。
今の映画館って......シネマコンプレックスっていうんですかね?
大型の商業施設の中なんかに、たくさんのスクリーンがあって、いろんな映画が上映されてますよね。
ちょっと派手なくらい明るい感じの場所で......
ちょっと前までは町の中にぽつぽつと、スクリーンが一つか......多くて二つですかね。そんな小さな映画館がありました。
「まだこういうところあるんだなぁ......」
Iさんが見つけたのは、コンクリ造りではあるんですが、ちょっと洋館風にしつらえられた、そんな古い感じの映画館だったそうです。
「映画なんて久しぶりだな......ひとつ見て行ってみようか?」
時間が変に空いてる訳だし、普段はお目にかかれないような場所に入ってみるのも面白そうだって気持ちもあって、Iさんは掛かってる映画も気にしないまま、何の気なしに入っていった。

手売りのチケット売り場でチケットを買ったりなんだりして、スクリーンのある上映室に入っていくと、そこは思いのほか広かった。
赤い緞帳だけがやけに立派で、あとは至って簡素な作りのホールになっていて、その広い中に客はたぶんIさんだけ。
映画館なので薄暗いわけで、隅々までよく見えるわけじゃないけど、他の席に人の気配がない。
「うわー、雰囲気あるなぁ」
最初面白がってたIさんも、すぐに後悔することになった。
暫くして上映の始まった映画は、かなり古いホラー映画のようで......もともとIさん、怖い話はあまり得意じゃないところに持ってきてこの雰囲気。
内容としては、とある田舎町のなんの変哲もない家庭で、知らないうちに家族が得体のしれない何かにすり替わっていくという、ある意味定番な、安っぽい内容だったんで、普段なら何という事もないはずなのに、やけに怖い。
「やだなー。気持ちわりぃなぁ」
と思いながらもIさん、ここを出て次の時間つぶしを見つけるのも面倒だし、多くない小遣いからチケットを買ったわけで、もったいない気持ちもあって、とうとう最後まで見ちゃった。

終わりの合図を皮切りに、Iさんは転がるように映画館を出た。
外に出ても......見慣れた街ではないですから......どことなくまだ現実感が無い。
さっきの映画の中にまだいるような気がして、気持ちが悪い。
Iさんは晩飯もそこそこに、その晩の宿に引き上げることにした。

宿の方はなんの変哲もない、『いかにも機能重視』のビジネスホテルで、怪談につきものの重い雰囲気とは無縁の場所だったんで、ようやくIさん人心地がついた。
「やなもん見ちゃったなぁ......」
とはいえ、まださっきの映画の寒気、というか背中がザワザワするような感じがこびりついているような気がする。
「なんか気分転換したいな......」
そう思っても、もう宿に戻っちゃってるし、これからもう一度出るのもめんどくさい。
明日も数件のアポイントメントがあるので、酒で紛らわせるわけにもいかないし、さっきみたいに馴れないことをして、また嫌な気持ちになるのも面白くない。
ふと、いつもの癖でスマートフォンを手に取った。
「あぁ」
Iさん思いついたんですね......気分転換できる気軽な方法を。
「なら、これにしとくか......」
Iさんは普段使ってるスマートフォンを取り出して......いくつかの検索キーワードを入力して......で、動画を見始めたそうです。

お気づきの方も多いと思いますが、Iさん、所謂肌色成分の多い動画を見始めたわけです。
男性なら多かれ少なかれそう言ったコンテンツは嗜まれる方、多いかと思いますが......
こういったものは、まぁ、あんまり大っぴらにやらないもんですね。
Iさんもご多分に漏れず、普段はこっそり隠れて、スマートフォンやなんかで楽しまれていたわけです。

夜もまだ早いし、宿の部屋には一人きり。
Iさんは普段では得られない自由な気持ちで、その晩は存分に楽しんじゃった。
モヤモヤを吹き飛ばすにはちょうど良かったんでしょうね。
Iさんはすっかり気分を戻して、その晩はぐっすり寝てしまった。
で、次の日の日程も恙なくこなして、出張は無事終わったそうだ。

出張が終わってIさんが自宅に帰り着いたのは、もうすぐ日付も変わる。そんな時間だった。
「こんな時間だし、皆もう寝てるんだろうなぁ......」
出張先を出る時に今から帰るって電話もいれたし、その時にはこの時間になることは伝えていたので恐らく家族は寝てるだろう。
とはいえ、普段はそこまで遅くなる仕事でもないし、月に一度程度の出張の時ぐらいは仕方ない。
......そんなことを考えている内に、我が家についた。
「......あれ?」
子供部屋の明かりは、案の定消えていたが......リビングにかすかな明かりがある。
部屋の照明が付いているわけじゃなくて、まるでテレビだけが付いているような。
「嫁が寝ずに待ってるのかな?」
普段なら間違いなく寝ているし、そのことについて文句を言ったこともない。
逆に待たせてしまう心苦しさも嫌なので、寝ていてくれた方が良いと伝えたことさえある。
起きて待っている理由なんて今日はなかったはずだった。
「夜更かししてテレビかなんか見てるのかな......」
そんなことを考えて、玄関から中の様子を伺ってみてもテレビの音も聞こえない。
「なんだよ、つけっぱなしで寝ちゃったのか?」
それはあり得る。
Iさんは勝手に納得して玄関の鍵を開け、家に入った。
「ただいま」
いつもの癖で声をかけながら扉を開けて......その時、かすかに物音がしたような気がした。
リビングの方から聞こえたような気がする。
(やっぱり起きてるのかな?)
リビングまで来た。部屋の照明もついていないし......外から見たかすかな明かりも見当たんない。
(やっぱりいないよな......)
気味が悪くなったとはいえ、ここは自分の家、いつまでも突っ立っているわけにはいかない。
意を決してリビングの扉を開くと、テーブルの上にテレビのリモコンが置いてあるのが見えた。
普段ならリモコン入れの中に入っているはずのモノが、まるで今放り出されたかのようにテーブルに乗っている。
ふと、昨日見た家族が入れ替わる映画が頭をよぎって、じっとりとした寒気が昇ってきた。
(やっぱりあんな映画見るんじゃなかったな......)
昨日の自分に悪態をつきながら、Iさんはリモコンを拾って......何の気なしにスイッチを入れた。
テレビの液晶画面が白く浮き上がり、何か枠のようなものと、それを埋め尽くす文字のようなものが映し出された。

それを見てIさん「ううっっ」と呻きながら腰を抜かした。

その画面は、昨日の宿でIさんが検索したキーワードと閲覧した動画でびっしりと埋め尽くされていたそうです。


Iさん、テレビのセットアップをしたときに、自分がいつも使っているアカウントをそのまま使った上に、ログアウトしなかったんですねぇ。

私もこの話を聞かされて、どんなリアクションをとっていいか迷ってたんですが......
この話には続きがありまして。

Iさん曰く、その週末に財布から諭吉さんが消えたそうですよ。
奥さんとの関係修復のために......

そしたらもう。
「あぁ......なら、ここは奢るよ」
私、そう言うしかなかったですよねぇ......

セキュリティ怪談、いかがだったでしょうか?

思いあたる節がある方もいらっしゃったのではないでしょうか?

家族共用のデバイスにどんなアカウントを設定するか?
なかなか難しい問題ですよね。

それじゃまた。

※この話はフィクションです
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