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 コース:元祖こってり

「元祖こってり」記事はネットエージェント旧ブログ[netagent-blog.jp]に掲載されていた記事であり、現在ネットエージェントに在籍していないライターの記事も含みます。

ファイル共有を肯定する"宗教"kopimism伝道教会とは

松本隆

こんにちは、松本です。ずいぶんお久しぶりになります。さすがに3回連続で杉浦に記事を書いてもらうのはまずいという事で急遽私に白羽の矢が立てられました。さて、そんな内輪の事情はさておき、今回は年明け早々にネット上で話題になったmissionary church of kopimism(以下kopimism伝道教会)という、ファイル共有を信仰する宗教について書いてみようと思います。kopimism伝道教会は私が今ヲッチしている中で一押しのカルト(※1) です。まずはこの動画(YouTube)を見てたっぷりと雰囲気を味わってから記事を読むのをお勧めします(笑)



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■ kopimism伝道教会の誕生
 2012年1月4日ネット上にkopimism伝道教会がスウェーデンで正式に宗教として認められたという興味深い記事が流れました。(※2) kopimism伝道教会はスウェーデンの哲学科の学生Isak Gersonによって2010年に設立された組織です。彼はインターネット上での自由な知識共有の信奉者でした。倫理と政治哲学を専攻し、インターネットと著作権の共存について否定的であり、著作権制度自体に反対の立場をとっています。世界中で商業ソフトウェアやコンテンツの違法コピー(いわゆる海賊版)の規制が強まり、ファイル共有ユーザーが当局に迫害を受けている状況を嘆き、同志を救済しコピー行為を正当化するためにkopimism伝道教会を立ち上げました。また、彼らは国家による信仰の保護を求めてスウェーデンで法務や金融の行政サービスを司るKammarkollegietに対して、正式な宗教として認めるよう申請を行いました。その試みは2度失敗に終わりましたが、宗教としての体裁を整え3度目の申請でようやく実現にこぎつけました。

 2012年2月27日現在、教会は(ドメイン上ですが)世界17ヶ国に存在し、信者は6000人を超えるといわれています。その中には日本教会が含まれているのも非常に興味深いところです。

 svgkopimism伝道教会が目指すのは、全ての人々が知識を共有しあらゆる情報に自由にアクセスできる世界です。そのために情報の検索や知識の循環、それを促すファイルのコピーは神聖な行為として正当化されます。Windowsのコピー&ペーストコマンドのCtrl + CとCtrl + Vをモチーフにしたシンボルが彼らの信仰を端的に表しています。
 信者(Kopimist)達にとって、ファイルをコピーし、リミックスし、共有することは倫理的に正しい行為であるとされているわけです。更に詳しい信仰内容に興味のある方はkopimism伝道教会の信仰のページをご参照ください。また、憲法のページにはkopimism伝道教会の組織運営についても説明されています。個人的には、教義の中でインターネットが神聖なものとして尊重されていて、当局からの監視などを想定とした通信の秘密とうまく共存できそうな仕組みになっている点は興味深い部分です。ただ、今回はそのkopimism伝道教会の教義ではなく、こうした「知識の共有と循環を善とする宗教」を立ち上げた目的の部分について少し考えてみたいと思います。

■ なぜ宗教なのか
 スウェーデンという国は、BitTorrentにおける世界最大のトラッカーサイトThe Pirate Bayを生み出し、またインターネットファイル共有の合法化を目指した政党Pirate Party(スウェーデン海賊党)が設立されるなど、ファイル共有の歴史の中で非常に象徴的な立ち位置を占めています。特にスウェーデン海賊党の存在は、単に情報共有だけでなくユーザーのプライバシーを守るという発想においてもkopimism伝道教会の在りかたと非常にリンクしているように見えます。
 
 そのスウェーデン海賊党は、知識の自由な共有と情報の自由を理念として掲げて2006年に結成されました。著作権や特許法の改正など既存の知的財産権に対抗し、市民の権利を強化するという活動によりスウェーデン国内の7.13パーセントの票を獲得し、2009年の欧州議会選挙では1議席を獲得しました。このように民主主義的な手続きに則って、既存の法律を改正し、ハッカーの理念を達成しようとしているのがスウェーデン海賊党であるとする見方もできます。この試みは、手続きとしては非常にまっとうではありますが、市場経済のルールが優先される現代では、決して多数派にはならないでしょう。

 その意味でIsak Gersonによるkopimism伝道教会の設立は非常に興味深く、その是非はさておき個人的には3つの意義があると考えます。ひとつは民主主義的な手続きを踏みながらも、知的財産権と同じステージで争わないと宣言したこと。Kopimism伝道教会はスウェーデン海賊党とは異なる、法律と戦うのではなく回避する道を選択したわけです。ふたつめは国家から宗教としての認可を得たことで、国内の信者や宗教関係者が最低限の保護を受けられるような組織を生み出し、またその道筋を世界に示したこと。みっつめは知識の共有に対し「善」という、共同体の垣根を越えた普遍的な概念を定義し、その実現手段であるファイル共有を倫理的に肯定する教義をまとめ、広く布教活動を実施することを可能にしたことです。「ファイル共有を積極的に肯定する宗教」という響きはジョークのようですが、考えてみるとこれはなかなか現実的かつ興味深いアプローチであるとも思います。

■ スウェーデンの思惑
 ここまで、kopimism伝道教会やスウェーデン海賊党について、彼らファイル共有を是とする側の視点で書いてきました。しかし私が最も気にかかっているのは「なぜスウェーデンはkopimism伝道教会を宗教として認可したのか」という点です。アイスランドのような特別な思惑があるのかもしれませんし、深い意図などないのかもしれません。私はいちヲッチャーとしてこれからもスウェーデンのファイル共有事情をヲチし続けようと考えています。また何か動きがありましたら、ブログで報告できればと思っています。


※1 正式に国家から宗教として認可されたことで「カルト」という表現は適切でないかもしれない。しかし動画を御覧いただければ一目瞭然だが雰囲気はまだまだ十分にカルトっぽい

※2 「正式に宗教として認められた」は意味的に強すぎるかもしれない。実際には国家に宗教として認識された、もしくは登録が認可されたという意味合いか

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